Go! カナディアンファーム ①
まだ自分が何になるのか皆目つかない二十歳の頃、一人で八ヶ岳周辺を車で良く走っていた。
ある道の途中、「ケベック料理・カナディアンファーム」と描いた一つの立て看板が目に止まった。
何だろう、ケベック料理って?
その頃レストラン湖粋で働き、洋食に目覚めた自分にとって興味をそそらせる看板だった。
何度も道に迷いながら、ようやく辿り着いたカナディアンファームは自分の予想をはるかに超えた場所だった。

石造りの釜をデーン、と外にあつらえた、頑丈かつ洒落っ気のない丸太小屋の二階建てのレストラン。
スタッフは日本人をはじめとして、仕事しているのか、遊んでいるのか分からない多くの外国人たち。
こんな森の奥に何処から聞き込んできたのか分からないほどの多くのお客さん、そして木でこしらえたアスレチックやすべり台でターザンごっこをする、たくさんの子供達。
釜からは煙があがり、料理が出来上がる。
二階の客席の奥には何十本のハムやベーコンがぶら下がっている。
一見、ここは時代錯誤のコミューンか、ジプシー村か?と思わせる程のいっちゃった感。
全てが混沌、一体となっている中心に、髭もじゃらの、何だか妙に陽気なおっさんが居た。

その人が長谷川 豊、通称ハセヤンだったのは後で知った。
その後、自分は東京へ出て、映画の世界に入り、バブルや映画界衰退の荒波にもまれながら居酒屋やレストラン、ビアパブなどで食いつなぎ、自分の映画撮りの為にロケハンを兼ねて清里や、小淵沢周辺を車で走りながら、カナディアンファームにも何度か寄った。
行く度にカナディアンファームは少しづつ形を変え、様々な小屋が出来ていった。
料理は石窯で焼くハンバーグや骨付の大きいチキン、燻製のセット、ホッとする滋味深いスープ、メープル入りのバターを添えた、シンプルで飾らないパンなどがお気に入りだった。
今思えば、あの頃にカナディアンファームの中に入っていれば、随分と違っていただろう。
歳月は流れ、自分の店を持ち、苦労しながら、
這いずるように15年が経った。初めてカナディアンファームに行った頃から20年が経とうとしていた。
その間、ハセヤンはTVチャンピオンの廃材利用選手権で見事優勝し、その後どっちの料理ショーでハセヤン特製のスモークサーモンが食材で取り上げられるなど、着々とその名声を上げていた。
一度、店のスタッフと山梨や長野周辺の気になるお店を見て回った事があり、カナディアンファームにも寄ったが、スタッフの人気ナンバーワンは、やはりカナディアンファームだった。
しかし、「マスターはあそこまでは出来ないね」と言われてしまった。
自分で森を切り拓き、家を建て、畑を耕し、鶏や山羊を飼い、鉄を加工し、釜やストーブを作る、いわば自給自足の生活は無理だと言われたのだった。
たしかに自分もそう思っていた。
シャロムヒュッテやその他のオーガニック系の店に行き、その反動?からか自分でも畑をやるようになったが、その余りにもの上手くいかなささや、時間の無さについついおろそかになってしまい、毎日の生活に追われながら月日だけが経って、気がつくと自分や、自分の店が疲弊してしまっていた。
これではいけない、と思った。
何か始めなければ、このまま流されるだけだ。
そんな時、頭に浮かんだのはカナディアンファームだった。
過剰な飾り立ての要らない、シンプルな生き方。
便利な世の中にありながら、あえて自分達で全てを賄う暮らし。
石や木や火、といった自然の恵みを扱う生活。
今の自分に無いものをカナディアンファームは持っていた。
去年の暮れにひょんな経緯で店の客席をリニューアルしたのをきっかけに、カナディアンファームにメールし、修行させて下さいとダメもとで頼んでみた。
間もなくハセヤンのパートナーでもある越中谷さんから「よろしかったらどうぞ」と返事が届いた。
自分としては春以降、暖かくなってから行く予定でいたが、今年の冬はハセヤンがファームに居て、いろいろ修繕を行うので、今の時期に来たら勉強できるよ、との事だった。
少々面食らったが、せっかくのファームからの申し出を断る理由もなく、じゃ、一丁冬のファームの生活を経験させてもらおうか、とあいなった。
いきなりの事だったので、スケジュールを調整し、スタッフに許可をもらい、一週間程度の休みを取って出かける事にした。結局は仕事の都合で五日間しか休みが取れなかったのだが。
夢にまで見たファームでの居候生活。
しかしいざ実現するとなると、急にビビり始めた。
極寒の八ヶ岳での暮らし。自分には初めての経験だ。しかもスキーなんかで遊びに行くわけじゃない。仕事をしに行くのだ。仕事と言っても無給である。今回のメインの仕事は大工である。自分は大工は全くの素人だ。40過ぎて、体力、気力が落ちてきている自分に務まるんだろうか?
また新たに人間関係も構築していかなくてはならない。夏ほどではないが、スタッフが常駐している。
こっちでは小さいながらもお山の大将で威張っていられるが、向こうの大将は勿論ハセヤンだし、スタッフも自分より一回りも若い者に顎で使われるかも知れない。一癖も二癖もある奴らだったらどうしよう?相撲でも取らされるか?それとも昔CMで見たような、石を抱えて首回りで転がす祭りやるで~、なんて言われたらどうしよう。
でもともかく行くっきゃないのだ。自分で決めた事なんだから。
店のスタッフや家族、お客さん全てに迷惑かけてまで行くんだから、後悔しないように行くのだ。

そんな訳で、1月15日の日曜からファームへの旅が始まった。
つづく。
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コメント
お疲れさまでしたぁ。
パエリヤ食べれなかったのは残念でしたが(><)
つづき楽しみにしてます!
あ!twitterもフォローしておきました。
その他facebookなどSNS利用すればお店にも何らか面白い影響があるかもしれませんねぇ。
御殿場行ったときは是非よらせてもらいます。
投稿: shumatz | 2012年1月25日 (水) 11時27分
こちらこそ、パッと来てパッと帰ってすみませんねー。
あまり話す機会がなかったけど、次回は飲みましょう!
もうちょっとファームの事書きますよ。心して下さいな
ツイートその他のよく分からないもんで、今度教えてね!
投稿: atuatutaro | 2012年1月25日 (水) 14時57分